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キングコング対ゴジラ[1962]


監督 本田猪四郎(本編)

   円谷英二(特撮)

脚本 関沢新一

出演 高島忠夫

   佐原健二

   藤木悠

   浜美枝

   若林映子

   平田昭彦

   堺左千夫

   根岸明美

   田島義文

   大村千吉

   田崎潤

   松村達雄

   有島一郎

音楽 伊福部昭

撮影 小泉一(本編)

   有川貞昌(特撮)

   富岡素敬(特撮)

『キングコング対ゴジラ』はゴジラ・シリーズとしては初のカラー作品であり、東宝設立30周年記念作品として製作された映画でもあり、アメリカの大スター怪獣キングコングとの夢のシングルマッチもあり、はじめて「OO対ゴジラ」や「ゴジラ対OO」という題名を使った作品でもあります。とにかく初物づくし、記念づくしの映画となったのがこの作品「キンゴジ」でした。製作に田中友幸、監督に本多猪四郎、特撮に円谷英二、音楽に伊福部昭を起用したこの作品は黄金のカルテットがおのおの良い仕事をしています。キングコングを持ってくるという企画と高島忠夫や有島一郎を上手く配役した田中、喜劇と特撮を融合させた本多、オブライエンへのオマージュと彼を超えることに

ただならぬ情熱を燃やしたであろう円谷、熱帯秘境音楽を提示して作品の詩情を豊かに演出した伊福部とそれぞれが素晴らしい貢献をしました。昔からのゴジラ・ファンの間でも、この作品の人気は根強く、この作品をベストに挙げる人も多い。ゴジラの造形はおそらくこのときのものが一番カッコ良いのも事実です。塩ビ・フィギュアでも、オリジナル版とキンゴジ版がもっとも人気があります。背びれ、顔付き、尻尾、ボディの質感など惚れ惚れするほどにスタイルが良く、絵になるゴジラだと思います。不細工に作られたキングコングとの対比を楽しむのも一興です。なぜあのようにキングコングだけがブサイクに作られたのかは謎であり、キングコング・ファンとしては許せないご面相だったのではないだろうか。落ちてお尻を掻いたり、ゴジラの攻撃から急所をかばったり、頭を掻いて退散したりするキングコングを観たい人がいたのだろうか。あまりにもコミカルに道化のように振舞うキングコングにはエンパイア・ステートビルでフェイ・レイを叫びまくらせた初代キングコングのような南海の大王としての面影を見出すことが難しい。もしかするとイングコングではなく、ジョーヤングだったのかもしれません。  せっかくハリーハウゼンばりのストップ・モーション・アニメーションも使われているオオダコとの闘いシークエンスを与えられているものの、キンゴジ全篇を通しての印象としては、彼はあまり良い待遇を東宝から得たとは言い難い。それなのにさらに東宝で『キングコングの逆襲』で再オファーを受諾した理由はもっと分からない。権利者はよほどこの頃お金に困っていたのでしょう。その反動からか数十年の時を経て、満を持して製作された米国版『ゴジラ』はあまりにもリアル路線を突っ走ったため大コケしてしまいました。歌舞伎という演劇の素養がある日本の観客はこういったジャンルを観る時にはリアルさよりも様式美を重んじる感覚を持ち合わせているので、あまり細かすぎるリアリティには反って興を削がれてしまう。  ストーリーとしては、ファロ島を舞台にした前半はほぼオリジナル・キングコングの焼き直し的なお話を高島忠夫や藤木悠を狂言回しとして機能させて、コミカルタッチで描いていき、島民との交流などを見せて和やかなムードで作品を進めていきます。この作品でも『モスラ』と同じように原色を多く使ったカラーならではの良さが出ています。有島一郎が扮する多胡部長のキャラクターが秀逸で、彼の存在がかなり大きく作品の明るさに貢献しています。喜劇と特撮というと本来は水と油なのではないかと思いますが、良い俳優と脚本があれば、十分に機能するのですね。二大スターの共演、しかも製作会社が違うというハンディとお互いの面子があるために、かなり制約が多かったのではないでしょうか。対決物であるにもかかわらず、対戦に完全な白黒を付けられないのです。プロレスの興行で両者の思惑が錯綜する場合には、結果として導き出される答えは「両者リングアウト」、「無効試合」、「ノンタイトルマッチ」、「タッグマッチで両者のパートナーがやられまくるケース」のいずれかになります。実際にこの勝負は90分3本勝負で幕を開けましたが、一本目はゴジラがリングアウト勝ち、二本目は両者リングアウト、三本目は両者がリングに戻ってこなかったために無効試合となりました。優勢だったのはゴジラですが、キングコングの健闘も忘れられません。常にコミカルな動きをし続けるキングコング、だんだんスクリーン慣れしつつあったゴジラの両者はお互いに素晴らしいライバルに恵まれたためにハッスルし、日本中を股にかけ、あちこちでその存在を示します。南の島から日本に来日し、国会議事堂で浜美枝とともに決めのポーズをとるキングコング、氷の中から現れて、北から富士山麓を目指してやってくるゴジラ。日本全国の街道を花道のように使ってやってくる様子はまさにプロレス興行です。二枚目悪役スターのゴジラ対演技派スターのキングコングの対決は非常に興味深い。この対戦の後、ゴジラは徐々に演技派への道を歩むことになります。

 特撮面で興味深かった映像のひとつに行方不明になった恋人を探すために浜美枝らが電車に乗るシーンがあり、夕暮れに海岸沿岸を通過していくショットで、ミニチュア電車のなかで乗客が荷物を上げ下ろしして、動いているような細工を施しているのが見えたとき、円谷英二のプライドの大きさを垣間見ました。夕暮れ時にこちらに向かって、ゆっくりと歩いてくるゴジラは本当に不気味でした。ゴジラが山と山の間から港を見下ろすショットはこの作品中で最も恐ろしいショットです。映像を含めた演出は冴えていて、演技も暖かみがあり、心地よい。さらに素晴らしいのが伊福部昭によって付けられた音楽です。キングコングのいたファロ島での原住民のキングコングを迎える歌、ラジオから突然掛かる日本の歌、そして力が漲るテーマ曲など印象的な曲が多い。


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