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Stranger Than Paradise[1984]

監督 ジム・ジャームッシュ

脚本 ジム・ジャームッシュ

出演 ジョン・ルーリー

   エスター・バリント

   リチャード・エドソン

   セシリア・スターク

「僕はキャリア・アスピレーション(出世)を目指している人の映画を撮ることにまったく興味がな

 い。僕のどの映画にもテーマとしてあるのが、そうしたキャリア・ハッスル(出世主義)の外側に

 いる人たちなんだ」

 「アメリカは高い地位を闘って取る人々の国だということが普通になっている。この映画の中の金

 銭の考えというのは、全身をかけてそれを得ようとするのではなく、騙したり罠にはめたり、偶

 然によってそれを掴むことだ」

 監督のジム・ジャームッシュは17才でニューヨークに出てバンド活動を始め、その後、作家を志しコロンビア大学文学部に入学した。故郷のオハイオでは映画はあまり観ていなかったが、1974年にパリに9ヶ月滞在したときにゴダールや小津安二郎といったヨーロッパや日本の映画作家を発見し、同時に、サミュエル・フラーなどのヒップなアメリカ映画にも触れた。ニューヨークに戻ったジャームッシュは作家として物語を綴り始めるがそれが極めて視覚的なものに変化したことを自覚して、1975年にニューヨーク大学大学院の映像学科に再入学する。ここで師となるニコラス・レイ監督と出会い助手を務めることになった。そして、在学中に最終学期の学費をすべてつぎ込んで『Permanent vacation』という16ミリを撮影。これを高く評価したロードムービーの映画作家ヴィム・ヴェンダースから40分ほどの量の余ったフィルムを譲り受けて、ニューヨークを舞台にした30分の短編作品を撮る。ヴェンダースはせいぜい5分程度の作品を期待していたので驚いたそうだ。その作品こそ3部構成の『Stranger Than Paradise』の最初の1部である「The New World」だった。貴重なフィルムの無駄遣いを避けるため、入念にリハーサルを繰り返してたった2日間、8000ドルで製作した。この30分の短編がロッテルダム映画祭に出品されると話題を呼び、協力者の援助で残り2部「One Year Later」と「Paradise」を撮ることができ長編に仕上がった。総制作費は12万ドル。

 「つまり、アメリカを通常そう思われているようには示さないことで、アメリカに異質の光を当

 ててみたかった。形の上ではこれはとても非アメリカ的な映画だけれど、テーマや性質の上では

 かなりアメリカ的だと思う」

 『Stranger Than Paradise』はハリウッド大作に親しみ慣れた人たちには理解不能な作品かもしれない。淡々とした日常のスケッチの中で、大事件やロマンスも起きない。普通ならカットしてしまうようなシーンが編集されている。しかも、ざらついたモノクロフィルムの、ワンシーン・ワンショットで、その間をブラックアウトで綴っていく。あまりにも新鮮な感覚を呼び起こしたこの作品はカンヌ映画祭の最優秀新人監督賞をジャームッシュにもたらした。各々の映像が次の映像までの間、心の中に残るという不思議な情感に多くの人が魅せられたのだ。

「The New World」

 ウィリーはニューヨークの安アパートに住みながら、友人のエディとともに競馬やポーカーといったギャンブルで生計を立てている。ウィリーはハンガリー出身で本名はベラというが、エディにはそのことを隠していっぱしのニューヨーカーを気取っている。

 そんなとき、ハンガリーからやってきてオハイオ州のクリーブランドに住むロッテおばさんの家に向かう途中の従妹のエヴァを一時的に預かることになる。彼女を見ていると自分が見捨てた祖国を思い出すので噛み合わなかったウィリーだが、10日後の別れの日にはエヴァに身内としての親しみを抱くまでに至った。

「One Year Later」

 イカサマで600ドルを得たウィリーとエディはどこかへ行こうと提案し、借りた車でクリーブランドに向かう。エヴァの様子を見に行こうというわけだ。ロッテおばさんも温かく迎え入れてくれるがハンガリー語しか喋らない。なぜかエヴァのデートに付き添ったり、ポーカーをしてロッテおばさんに負け続けたり、雪で何も見えないエリー湖に出向いたりして過ごす。

 ニューヨークに帰る二人だが、所持金がほとんど減っていないので、フロリダにエヴァを誘ってヴァカンスに行くことに。ロッテおばさんが最後になって初めて英語で叫んだ。「Son of a Bitch !」

「Paradise」

 フロリダに入るものの、安モーテルに宿泊するウィリーたち。エヴァが目覚めてしばらくすると、二人はドッグレースで負けて帰ってくる。どうしようもないヴァカンス。気持ちが治まらず競馬に出かける二人。置き去りにされたエヴァは土産店で帽子を買って被ることぐらいしかできない。しかし、その格好が麻薬売人と勘違いされることになり、彼女はとんでもない大金を手にしてしまう。

 その頃、競馬で勝って上機嫌に戻ってきたウィリーたちだったが書き置きと大金を目にすると、エヴァを呼び戻すために空港に向かう…

 音楽も印象深く、最初は違和感のあるジョン・ルーリーの弦楽四重奏も時間が経つにつれて見事に風景と同化していく。そして、ドクロの杖とマント衣装で有名なスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの1956年のヒット曲「I Put a Spell on You」の異様で怪奇的な響き。なぜこんな曲が使われたのかというと、ジャームッシュが好きだったから。映画のためのワルツと監督は言っている。


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