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雨月物語[1953]


監督 溝口健二

脚本 川口松太郎

   依田雅一

出演 京マチ子

   森雅之

   水戸光子

   田中絹代

 黒澤監督が『羅生門』によってベネチア映画祭の金獅子賞を取った翌年に、同じ大映から製作された溝口健二監督の3年連続ベネチア映画祭受賞作品となったうちの一本。  この作品は『羅生門』との類似性がとても多く見られる作品です。製作責任は永田雅一、会社は大映、音楽は早坂文雄、撮影は宮川一夫、出演は京マチコ、森雅之など。設定を少し変えれば続編としても繋がるのではないかと思うほど。内容はいわゆる怪談物であるためにとても暗く、陰惨としていて身の毛がよだつような描写も多々あるのですが、嫌味が無く大変美しい作品に仕上がっているのです。恐い話なのです。寒くなる話なのです。  でも圧倒的な美しさが我々見るものを包み込んでくれます。ここでいう美しさとは単純なそれではなく、「構図」と「撮影技術」の卓越からくる美しさです。それは照明であり、音楽であり、演技であり、映画の要素が一体となって生み出すアンサンブルの美しさです。  特に素晴らしいシーンをいくつか。先ずは舞台となる長浜の武家屋敷でのワン・シーン。夜が近づき、屋敷の侍女たちが通路や部屋に明かりを灯していくところ。ホラー映画が陳腐に感じる恐ろしさと妖艶さが一体となっている素晴らしいシーンです。画面から「死」の匂いが漂います。ここでの宮川カメラマンは一世一代のカメラを見せてくれています。この作品の7割以上のシーンはクレーン撮影などに代表される移動撮影で撮られています。宮川さんと溝口監督の狙いは怪談物なので、この世のものとは思えない不安感を出したいというものだったようですが、見事にそれ以上の不安感と病的な躍動感を生み出しています。撮影の凄みを味わえる貴重な作品です。ワン・カット、ワン・カットで一時停止をして「写真」の美しさ、それも構図と色調の美しさを堪能して欲しい。止まった「写真」からでも溝口監督の撮りたかった人間の持つどうしようもない「情念」や「貪欲」、そして「業の深さ」が伝わってきます。  もうひとつの素晴らしいシーンは屋敷での宴会シーンです。京マチコが舞うシーンでは彼女自身の美しさはもとより、音楽が映像を盛りたてていて、映画の基本の「音」「映像」「物語」のうちの「音」と「映像」の融合の妙を聴く事ができます。最初は美しく妖艶な雅楽の調べだったものが、地響きを思わせる亡き父の地獄からの呼び声に代わる時、緊張感が最高になります。ここでの地獄の歌はこの作品の中の恐ろしいシーンのなかでも一二を争う恐さです。音が映画に占める影響の大きさを感じられます。  色調の美しさならば、森雅之と京マチ子が裸で湯浴みするシーンの妖しい美しさ。むせ返るような女のにおいが画面から伝わります。エロティシズムとはこういうことです。


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