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狂った果実 [1956]

 撮影期間17日の低予算で、監督は中平康。簡単にまとめてしまえば、無軌道に遊びまくる兄と真面目な弟が1人の女性を取り合う話です。

 逗子や鎌倉には幾度か行ったことがあるのですが、半世紀ちょっとも前でモノクロなのに雰囲気は今とあまり変わらないと感じたのは自分だけでしょうか。戦後の日本の社会状況下で、逗子で海水浴したり、ボートやヨットで沖に出たり、水上スキーをしたりすることはごく一部のお金持ちにしかできないことだったと思います。水上スキーをやっていたのには驚きました笑。楽しそう、いいな。最近の遊びだと思っていたので。1956年は敗戦から約10年後です。白黒テレビとか洗濯機とかが出始めた頃だと、多分…。大体の人は貧乏人でしょう。そして今と違って映画は数少ない娯楽だったと思います。大きいスクリーンに映る映画スターやその華やかな生活には、いつか自分もこんな暮らしをしたいという憧れというか願望があったと思います。数少ない、大衆に向けた娯楽であったからこそ、その思いみたいなのが時代を超えても画面の奥から感じられたのは不思議ですね。

 感想としては、殆ど演技になっていない演技でした。あと、ところどころ何を言っているのか聞き取れない会話がありました。訛ってる?からなのかな。荒削りで方々にぎこちなさが目立ちます。逆にそれが新鮮な魅力を作品に与えていた(当時としては)と言えなくもないですが。その頃の富裕層の綺羅びやかな生活とか風俗がわからないのでその描写がどれだけのものなのかは分かりませんが、若者達の行動がいちいち中二病っぽく見えます。感情移入しにくい。60年も昔だからかな。全体的な特徴としては人も映像もなんか艶っぽいです。特に水に色気を感じたのを覚えています。

 海と若者とダンス。初々しい津川雅彦が、後半になるにつれてだんだんとましな顔になっていくのはよかったです。明るく純粋で素直そのものでしたが、ラストで内面の闇を表情に浮かび上がらせていく。石原裕次郎主演の映画でしたが、どちらかというと主役は津川雅彦でしょう。個人的に一番のイケメンは岡田眞澄です。北原三枝の日本人的な美貌が良かったです。男だからかしら。作中では、見た目は古風で落ち着いているキャラでした。圧倒的な個性を放つ石原裕次郎や津川雅彦とかとは対照的に。でも、かなりアグレッシブですね、ただ単純にお淑やかというわけではない。芝崎から一色まで泳ぐという設定は流石にやりすぎと思いますが笑。そおいうギャップがいいのかも、例えば、ものすごい美人だけど着物の下はすっぽんぽんだとか。なんか少うし興奮する。何言ってんだか。。

 結末は少し衝撃的でした。むしろ馬鹿だなこいつはと私は思いました。それだけヒロインの事が大好きだったのでしょうが、理解しかねますね。裕次郎も、ヒロインに惚れたのは分かるけれど追いかけてきた弟に向かって、「お前には負けたよ」なんて、軽く譲ろうとするところが中途半端でかっこ悪い野郎だなと思いました。ダサい。けど、そこが若者臭い。勝手に奪っておいて失礼な話だろ。結局、女たらしのチャラ男、岡田真澄が一番常識人でした。モーターボートでヨットの周りをぐるぐるぐるぐると追い回す場面は、その狂気を表す方法としてやったんでしょうが長すぎてダラけちゃっています。あと、津川の乗っていたボートの名前が「SUN-SEASON号」だったのには目が留まりました。そういえば石原慎太郎の小説にあったような。”太陽の季節”号、笑。昔、ちょっと齧ってブックオフに売っちゃいました。あそび。

 車の中から映る外の風景が昔の映画感を醸し出していました。それに、オープニングの音楽と共に疾走してくる、津川のモーターボートのモンタージュが最後のシーンに結びついていて、オープニングとクライマックスが最後で繋がる構成は効果的でした。また、三人の三角関係ができていく過程は上手く描かれていました。ただ、常に人物を画面の中心に置き続ける撮り方のせいでスクリーンの広がりが感じられない。意識的に二人だけの世界を表現する時にこういう撮り方をするのは良いと思うのですが。

 この作品、ヌーヴェル・ヴァーグに影響を与えたとされる石原裕次郎の初主演作品だそうで、私自身ヌーヴェル・ヴァーグについてはこれを見るまで何も知らなくて、近いうちに、トリュフォーやゴダールの作品を観てみたいです。ヌーベルヴァーグの匂いとはどういったものか。「狂った果実」のどのシーンにそれが感じられるのか。ラストシーンか、全体を通してなのか、それとも冒頭か。気になるところです。しかし、当時としては傑作だったのでしょうが、様々な手法が出し尽くされて、映像技術の進んだ今の映像を見ている私たちからすれば、娯楽すれすれの退屈な映画になっています。物好きしか見ない。私は愉しめました。

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